第4章S=1:500S=1:100
事例
アサヒ、アスクル、関通、半田病院、名古屋港など15組織が公表した侵入口を、各組織の表現のまま並べる。VPN 機器を挙げたのは9件。5件は種類を明かさない機器や接続口としている。
2021年10月31日未明、徳島県のつるぎ町立半田病院で、院内の複数のプリンタが同じ文書を印刷し始めた。データを盗み、暗号化したという犯行声明である。
出典: 徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議 徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案 有識者会議調査報告書 (printed pp.6–7, 13, 16, 21–22; pp.6–9, 13, 21, 37–38)
要旨
どの事例も、組織自身か公的な調査が侵入口を明らかにしている。15件のうち9件は VPN 機器を挙げる。5件は「ネットワーク機器」「通信機器」「リモート接続機器」「外部ネットワークとの接続口」とだけ述べており、国の委員会や報道記事が後から VPN 機器の可能性を示した場合も、その表現のまま扱う。1件は業務委託先のアカウントを挙げ、ログインした機器は特定していない。
病院と港の4件の調査報告書では、調査の時点で機器自身のログは残っていなかった(名古屋港では最初から取得されていなかった)。4件のうち3件では、機器がインターネット上のどこからでも接続できる状態だった。
事例ごとの侵入口
事例の一覧
判明日は組織が攻撃に気づいた日で、それが公表されていなければ公表日を示す。影響は組織自身の発表に沿う。
| 組織 | 侵入口 | 製品・CVE | 判明日 | 影響 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | |||||
| つるぎ町立半田病院病院(町立、120床) | VPN 機器 | Fortinet FortiGate(リモート保守用 VPN 機器)CVE-2018-13379 | 2021-10-31 | 電子カルテ停止。通常診療まで約2か月 | 徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議 [1] 徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案 有識者会議調査報告書 [2] 徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案 有識者会議調査報告書 技術編 |
| 大阪急性期・総合医療センター病院(府立病院機構、急性期) | VPN 機器 | 給食事業者側の Fortinet FortiGateCVE-2018-13379 | 2022-10-31 | 基幹システム43日、全面復旧73日 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター 情報セキュリティインシデント調査委員会大阪急性期・総合医療センター 調査委員会 |
| 名古屋港運協会(名古屋港統一ターミナルシステム NUTS)港湾(コンテナターミナル) | リモート接続機器 種類は非公表国交省の委員会は保守用 VPN 機器と「見ることが適切」とするが、断定はしていない | — | 2023-07-04 | 全ターミナルが約2.5日停止 | 名古屋港運協会国土交通省 |
| 岡山県精神科医療センター病院(地方独立行政法人、精神科) | VPN 機器 | Cisco ASA 5506-X(保守用 SSL-VPN) | 2024-05-19 | 最大4万人分の個人情報が漏洩。復旧に約3か月 | ソフトウェア協会 Software ISAC 岡山県精神科医療センター ランサムウェア事案調査委員会 |
| 株式会社関通物流代行 | 外部ネットワークとの接続口 種類は非公表ソフトバンクのブログ記事は VPN と書くが、会社の発表は VPN に触れていない | — | 2024-09-12 | 環境を全面再構築。出荷が停止・遅延 | 株式会社関通ソフトバンク ビジネスブログ |
| アスクル株式会社オフィス用品の通販・物流 | 社外からのアクセス 機器名の記載なし | — | 2025-10-19 | Web 受注が約6週間停止。約74万件が流出 | アスクル株式会社 |
| アサヒグループホールディングス飲料・食品 | ネットワーク機器 種類は非公表 | — | 2025-09-29 | 受注・出荷が停止。封じ込めと復元に約2か月 | アサヒグループホールディングス [1] サイバー攻撃による情報漏えいに関する調査結果と今後の対応について [2] サイバー攻撃被害の再発防止策とガバナンス体制の強化について |
| 穴吹興産株式会社不動産 | 通信機器 種類は非公表 | — | 2026-02-03 | 個人情報と社内情報の一部がリークサイトに掲載 | 穴吹興産株式会社 |
| YCC情報システム自治体・企業向け情報サービス | ネットワーク機器 種類は非公表 | — | 2026-04-02 | ファイルサーバ暗号化。取引先の情報が閲覧された可能性 | YCC情報システム |
| 精電舎電子工業製造業(産業機器) | VPN 機器 | — | 2026-04-22 | サーバの大半が暗号化。AD のデータが流出 | 精電舎電子工業 |
| 両毛システムズ情報サービス | VPN 機器 | — | 2026-08-14 | 営業・取引・個人の情報が漏洩したおそれ | 両毛システムズScanNetSecurity |
| 海外 | |||||
| コロニアル・パイプライン燃料パイプライン | VPN 機器 | — | 2021-05-07 | パイプラインが約5日間停止 | 米国上院 国土安全保障・政府問題委員会BankInfoSecurity |
| ボーイング・ディストリビューション航空機部品の流通 | VPN 機器 | Citrix NetScaler ADC / GatewayCVE-2023-4966 | 2023-11-02(公表日) | 部品流通事業に影響 | CISA・FBI・MS-ISAC・ASD's ACSC(共同)TechCrunch |
| 米国 CISA(化学施設セキュリティ評価ツール CSAT)政府機関(サイバーセキュリティ)ランサムウェアではない。CISA は攻撃者を名指ししていない。 | VPN 機器 | Ivanti Connect SecureCVE-2023-46805CVE-2024-21887 | 2024-01-26 | 2システムを停止。持ち出しは未確認 | CISA(米国) [1] Chemical Security Assessment Tool (CSAT) Ivanti Notification [2] ED 24-01: Mitigate Ivanti Connect Secure and Ivanti Policy Secure VulnerabilitiesCybersecurity Dive |
| MITRE(研究用ネットワーク NERVE)非営利の研究機関ランサムウェアではない。MITRE は中国の国家主体の攻撃者によるものとしている。 | VPN 機器 | Ivanti Connect SecureCVE-2023-46805CVE-2024-21887 | 2024-04(公表日) | 研究ネットワークが侵害(諜報型、ランサムウェアではない) | MITREHelp Net Security |
事例の選び方
載せたのは、組織自身または公的な報告書が侵入口を明らかにした事例だけだ。報道、セキュリティ研究者、攻撃者の主張でしか経路が分かっていない事案は、VPN の事例としてよく挙げられるものでも外した。報告書にある認証情報は転載していない。
| 組織が述べた侵入口 | 日本 | 海外 | 計 |
|---|---|---|---|
| VPN 機器 | 5 | 4 | 9 |
| 機器・接続口 種類は非公表 | 5 | 0 | 5 |
| アカウントのみ 機器名の記載なし | 1 | 0 | 1 |
| 計 | 11 | 4 | 15 |
うち2件はランサムウェアではない(米国の政府機関と研究機関への侵入)。
事例のページは運輸安全委員会の事故調査報告書にならった。同委員会の報告書は、調査は事故の再発防止のために行うもので、責任を問うためのものではないと明記している。